コーポレートサイトにちょうどいいオープンソースCMSのbaseCMSを中心となって開発しているエガシラリュウジ氏に、2013年5月5日のゴノツクヒにて、baserCMSをオープンソースにして、その後、どのようになったかを話してもらいました。
『俺が作ったのではなく、みんなで作ったのだ』という熱い思いを中心に、「だれが何をしたか」を具体的に話していただけたのですが、ここでは、個人名は控えさせていただきます。
オープンソースにしたのは福岡のIT系コミュニティーでの知り合いからの勧め
baserCMSは、2009年の12月にオープンソースになり、それからおおよそ3年の月日が経っています。
もともとは、エガシラ氏が、自社(キャッチアップ)で作っていた「baserCMS」というホームページの更新システムだったのですが、現在は、福岡発の国産オープンソースCMSとして展開されています。
baserCMSがオープンソースになった経緯は、エガシラ氏が参加している福岡市内のIT系コミュニティーで出会った友人より「オープンソースにしたら?」というアドバイスを受けて考えだしたとのこと。
baserCMSサイトのデザインも、地元のWebデザイナーの勧めと多大な協力により、大幅にリニューアルし、それから、本気になりだしたそうです。
この頃から、baserCMSは、開発者エガシラ氏だけのものではなくなり、baserCMSコミュニティーみんなのものになっていきます。
現在のbaserCMS
2013年5月5日現在、ダウンロード数は4万〜5万回以上、導入数は2,000サイト以上に昇り、JAさが 佐賀県農業協同組合、福岡工業大学、九州旅客鉄道株式会社鉄道クラブなどに採用されています。
また、株式会社paperboy&co.のロリポップやヘテムル、ドメインキングなどの多くのサーバーホスティングサービスの簡単インストールなどに採用され、大きくユーザー数が伸びたとのこと。
コーポレイトサイトに最適なCMS
オープンソース化した後は、やはりブログツールのWordPressと比べられることが多かったそうで、おそらく差別化が大変だったと思われますが、友人の「コーポレイトサイトに最適なCMS」という一言をキャッチフレーズにして、あくまでホームページ用のCMSという位置づけで、WordPressとの棲み分けをはかっています。
オープンソースにしてその後
1年後、自身の会社「キャッチアップ」は資金難に直面していたそうですが、その中でもbaserCMSの開発と普及に勤しみ、とうとう500万の出資の話が持ちあがったそうです。
しかし、エガシラ氏曰く『ものすごく悩んだところ、これまで培ってきたコンセプトを崩したくないという思いがある事に気づき、それを変えないという結論に至った』とのことで、資金面が苦しいにも関わらず、その出資を断ったそうです。
その後、オープンソースカンファレンスに出展し、同カンファレンスや、口コミを通じて、Web制作や開発の仕事がくるようになり、資金難を克服(逆に支払いまでの期間が長くてキャッシュフローが苦しいと言う状況が生まれたが)。
「baserCMSを運営しているのがキャッチアップなので、baserCMSの仕事は自然とキャッチアップ」ということで仕事が来るようになり、「baserCMSの開発者」ということで、セールスマンのように売り込む営業をしなくてよくなったとのこと。
ここで、エガシラ氏は、baserCMSはマネタイズ出来てはいないけど、自社の広告塔になってくれているんだということを感じるのですが、その一方、エガシラ氏はそこでも「baserCMSはキャッチアップの宣伝になったが、コミュニティーに還元していかないといけない」と考え、悩むことになったそうです。
オープンソースカンファレンスで全国行脚
コミュニティで出会った協力者が力強くサポートしてくれて、「サポートするから(オープンソースカンファレンスで)全国をまわろう」という声をかけてもらったとのこと。
その声をきっかけに、その協力者と全国のオープンソースカンファレンスで出展してまわり、今では、東京などで、エガシラ氏以外にもbaseCMSの発表などをカンファレンスでしてくれる仲間が見つかっています。
一方、自身の会社も、それなりに忙しくなり、また、オープンソースの活動を通じて、続けていくことへの心構えや、協力してくれるスタッフに対する思い、社会貢献出来ていることへの気付きなど、心の変化があったそうです。
オープンソースのライフサイクル
自身の経験もあってか、開発者やweb制作者を楽にしたいという気持ちがあるとのこと。
例えば、フリーのプログラマーで仕事を受注しても、開発期間が3ヶ月、支払いが翌々月という場合、5ヶ月も収入がない期間が続きます。
そのような状態だと、フリーのプログラマーをやっていくのは辛いですし、そもそも、出来る人も限られてくるのでは?という問題があります。
そこで、baserCMSなどオープンソースのプロダクトを、みんなで協力して創り、改善していくことによって、開発期間を短くし、上記のような収入の時差を埋めたいそうです。
また、エガシラ氏は、創って共有出来るものはオープンソースにし(baserCMSの場合はデザインのテンプレートやプラグイン)、また、それを利用改善していくようなPDCAサイクルが生まれ、そうして、特別な人でなくても、プログラマーとしてフリーになれる環境が出来ればと期待しています。
baserCMSのこれから
baserCMSをオープンソースにしてから2年目まで、『福岡でちやほやしていただけたけど、ちょっと福岡出れば誰も知らない状況』のようで、もっと認知度をあげていく活動もやっていくようになります。
また、コミュニティーをNPO法人にし、公のモノにbaserCMSをしていき、極力、会社や、エガシラ氏個人との直接的な繋がりを断っていきたいとのこと。
これは、baserCMSの開発からエガシラ氏が離れていくことを意味しているのではなく、『俺が作ったのではなく、みんなで作ったのだ』という、協力者への感謝の気持ちと、これから参加してくる協力者の参入障壁を下げるためだと思われます。
NPOの設立は、WordPressの『WordPress Foundation』や、Javaのフレームワーク群をリリースしているSeasar Projectの『Seasar Foundation』などというように前例があり、ユーザーコミュニティーと営利企業との調整役として機能することが多いので、NPO設立は、baserCMSが公になる大きな一歩と感じます。
そして、baserCMSはCakePHPというPHPの開発基盤を元に構築されているのですが、そのCakePHPのバージョンアップについていけていないので、それに追いつき、開発者が参入しやすい仕組みを作っていきたいとのこと。
最後に
『オープンソースにすることによって、リーチできる範囲(利用者の数)が広がるけど、それが(直接的には)利益に繋がらないです。でも、しなかったときよりも、利益を生む可能性は広がっています。』とのこと。
baserCMSの開発に携わっている方々は、スペシャルサンクスにて、紹介されてあります。
写真: 森田大翔