スタートアップ都市とも呼ばれる福岡市。
2012年に本メディア運営メンバーが中心となり主催するイベント「明星和楽」で現福岡市長である高島市長が「スタートアップ都市宣言」を行い、2014年には起業相談が無料でできる「スタートアップカフェ」が誕生した。2017年には、福岡市の官民共働型スタートアップ施設「Fukuoka Growth Next」が設立され、盛り上がりをみせている。
そんな盛り上がりの中、次なる打ち手としてFukuoka Growth Next の1階にあるスタートアップカフェで、プロ投資家への個別相談会が始まった。
今回は、コンシェルジュの一人で福岡発の投資会社(VC)ドーガン・ベータのファンドマネージャー津野 省吾氏にスタートアップカフェの概要と、「創業の前」から知っておきたい資金調達のポイントについて伺った。
資本政策以外にも起業に関わる相談ができる場
スタートアップカフェとはどんな場所なのでしょうか?
基本的には創業を志す方や、すでに創業されている方が対象で、起業準備のさまざまな悩みを無料で相談できる場所です。私自身は、スタートアップカフェで相談を受け始めたのが4月からで、約3ヶ月になります。福岡市のスタートアップエコシステムを構築するためのハブになる場所なのかなと個人的には考えています。
今から創業を考えている方や、今は会社勤めだけど、ふらっと立ち寄って今後の独立の相談をされる方など、様々な業種やバックグラウンドをお持ちの方が来られています。現状は、予約よりも飛び込みで来られる方の方が多いです。
スタートアップカフェでは、どんな相談を受けることが多いですか?
いつか起業したいとか、具体的にこんなアイディアがあるけどどう進めたら良いかとか、事業をするのにどうやったら資金調達ができるかなど、基本的な起業にまつわる相談を受けることが多いです。
具体例ですと、アイディアを事業化して事業を大きくするには、どんなマーケティングを含めた戦略で進めたら良いのかという相談がありました。ITなどの業種に限らず、飲食業でカフェを出したいのでどんな場所に出店したら良いか、スポーツジムをやりたいけどどういうスキームでやれば良いか、など業種問わず幅広く相談があります。資本政策以外にも起業に関わる全体的な相談を受けています。
どんな方が相談に来られるのでしょうか?
私は10代の相談を受けたことはありませんが、他のコンシェルジュが中学生から相談を受けたこともあります。第二の人生を考えておられる先輩も相談に来られます。老若男女問わず来られますね。スタートアップカフェならではの間口を広げて、どんな方でも相談ができるという特徴があると思いますね。
福岡の地をスタートアップシティとして活性化したい
投資会社(VC)は出資を希望する企業向けに経営アドバイスをするイメージだったのですが、VCがスタートアップカフェで個別相談を始めたきっかけは何だったのですか?
地域で創業したい人が気軽に相談できるような場や、それを支援する人との繋がりが広がるエコシステムができていると、産業が創出される環境になると考えています。起業する入り口から相談を受けることで、福岡の地がスタートアップシティとして活性化できるのではないかと思っています。仮に先輩起業家などの支援家が多くても、起業を志すプレイヤーが少ないとエコシステムができてもあまり意味はないと思いますが、福岡は良い環境にあると思います。九州の他県からの相談もあります。大分から福岡で起業したいと言われる方も相談に来られましたね。市内在住の方に限らず、いつかは福岡市の経済に貢献してくれるのではないかという気持ちで相談を受けています。
津野さんの得意な分野を教えていただけますか?
出身が宮崎ということもあり農業が好きで、最近はアグリテック(農業を意味するアグリカルチャーとテクノロジーを掛け合わせた造語)は、個人的に注目している分野です。得意な分野だと金融です。前職時代も含めて8年間のVC業務で十数社のスタートアップを支援してきました。その経験則はお話しできるかと思います。
ドーガン・ベータの他の相談員の方についても教えていただけますか?
コンシェルジュは弊社から代表の林 龍平、渡辺 麗斗、私の3名が対応しています。相談いただいた内容は弊社メンバー3名を含むスタートアップカフェのコンシェルジュで共有していますので、特に指名制でもなく、誰に相談いただいても大丈夫です。
起業のフェーズで異なる資本政策の失敗ポイントとは?
資本政策で、起業をした方の失敗しやすいことってどんなことがありますか?
起業時で言えば、共同創業者がいる場合には株式の比率で失敗することがあります。二人で共同創業した場合、やりがちなのが、株式の比率を50%、50%で同等にすることです。エグジットするまでにどちらかが辞めるケースが多い中で、共同の創業者がもっている50%の株はどうするの?みたいな問題は多く起こります。
共同創業者がいる場合は、力関係をしっかりしておくことが大事です。株式の比率についても6対4とか7対3にするなど力関係を株式のシェアで明確にしておくことがと良いでしょう。どちらかが辞める場合に備えて、事前に契約を結んでおくために、創業者株主間契約のようなものがあります。辞めたらこのくらいの株式で買い取りますといったような契約を起業時からしっかり取り決めしていかないと、途中でなにが起こるかわからないので、備えをすることが大事です。
では、会社が成長するときの失敗例は何でしょうか?
事業の成長期には外の方から投資を受ける選択肢がでてきます。VCの場合は、会社の価値を見極めて投資をする場合が多いです。希に起こるのが、VC以外から外の資本を入れる際にバリュエーションをしっかりと行わずに言い値で資金を受けてしまって、相手に株式のシェアをほとんど持って行かれるケースです。
起業してすぐに外の資本を入れてしまうと、会社の企業価値が低い段階で欲しい金額を提示することになるので、株式をほとんど持って行かれることは当然だと思っています。それとは別に、投資を受ける先の色がついてしまうケースもあります。そうなると他の投資先から、あそこはもう投資するのは難しいと思われることもあります。
株式市場に新規上場(IPO)を目指すぞ!と決めた企業にとっては?
2~3年後にIPOを目指す段階にいる企業のポイントになります。100%決まった時期にIPOができる訳では無い中で、IPOまで期間が延びてしまった際に、企業価値を下げて資金調達をしないといけないケースがあります。その時に、企業価値を下げて資金調達することを既存株主が自身の保有株の価値が下がるため、嫌がることがあります。会社を潰すか価格を下げるかの選択で、どちらが良いのかという難しい選択を迫られることもあります。
企業価値とはどうやって決まるものなのですか?
基本的に企業価値を決めるのは、VCなどの投資家と起業家の相対で決まるケースが多いです。起業家が考える金額とVCの提案する金額の差をどうやって埋めるかを両者で議論を重ねて、折り合った金額で投資するという流れになります。
理想の調達とは?
創業時のスタートアップは何社くらいから資金調達をするのが理想なのでしょうか?
一社でも問題無いと思います。資金調達額にもよると思うのですが、シードラウンド(創業前後のシード期に行う資金調達のこと)やプレシードラウンドではプロトタイプ(サービスの試作品)ができているかもわからない状況なので、リスクが大きい状況です。リスクヘッジの意味合いで数社から資金調達をするということはあります。
株主が増えることに対して、株主総会の手続きなどの株主対応やバックオフィス的な手間が増えてくることもあるので、できるだけ最初の段階では手間をかけない形でやることがベストだと思います。逆に株主が増えるメリットとして、複数のアドバイスをもらえるチャネルが増えると思うので、起業家の判断で数社から投資を受けるか決めていくのが良いと思います。
スタートアップカフェでは、市の相談窓口としてどこのVCに投資を受けているかに関係無く相談を受けています。株式に悩みがあればどんどん来ていただきたいですね。資金調達に悩んでいらっしゃる方も、いきなり近くの銀行に飛び込むのでは無くて、一度相談に来られると、事業の収益モデルや内容に応じて、その方に合う調達方法を提案ができると思います。
私はもともと銀行出身なのですが、銀行とVCでは資金調達の際の事業計画も異なる部分があります。納得感のある市場の成長性や事業のストーリーがあると、VCの資金調達に向いているのではないかと思います。私はVCと起業家は運命共同体と思っています。一回で投資に至ることはほぼほぼ無いので、回数を重ねて投資をするかを決めていきます。投資するかに関わらず、良いなと思った先は月に1回は会いますね。改善点のアドバイスもします。
株式に関わる問題は後戻りが難しい
相談を考えている方にメッセージをお願いします。
個別相談会なので、何でも相談を受けています。敷居の高い相談窓口では無いと思うので、何でも相談して下さい。癒し系の相談員ばかりなので(笑)
特に株式に関わる問題は、失敗に気づいても後戻りが難しい分野です。そういう悩みを「エイヤ!」で実行するのではなく、まずは相談に来て欲しいです。せっかく良い事業をしているのに、株式のシェアがおかしくなって自分で事業が進められなくなり、苦しむ起業家を減らしたいと思います。そのために、起業家の皆様には悩みが出た時点で相談に来ていただけたらという思いがあります。慎重に実行できるように外部の意見を聞いていただければ。資本政策の悩みで苦しむ起業家が少なくなってくれれば良いなという思いです。
こんな悩みをお持ちの方はぜひお越しください。
-共同創業者とそれぞれ出資をして会社を設立したい。
-ベンチャーキャピタルからの資金調達を目指すような事業計画を作りたい。
-具体的な増資に向けた議論ができるようになりたい。
-お金を出してくれるという人がいる
-従業員や協力者から、株・ストックオプションを求められた
-投資家から、投資をしたいとオファーを受けた
-資本政策を考えたい
-ベンチャー投資家とどう交渉するのが良いか相談したい。
今回の取材から、市の無料の相談窓口という公共性の高い場で、プロ投資家ならではの目線で、経験則に基づいたアドバイスを受けられるのは、起業家にとって心強いものになると感じた。
プロ投資家への個別相談会は、火・金曜日の10:00-14:00。基本的に相談は予約制で、相談希望の方は福岡市スタートアップカフェまで電話(080-3940-9455)が必要だ。なお、電話での相談は受け付けてはいない。