(九州産業大学オープンカフェ「たちばな」に併設されたオープンイノベーションセンターIN_.⦅インスペース⦆。九産大前駅に近い本学北門側に位置する。)
起業を検討する学生や卒業生、研究者をサポート
九州産業大学は、起業家の輩出を目指し「オープンイノベーションセンター」を学内に開設した。当施設では、起業を検討する学生や卒業生、研究者を対象とし、「大学のリソース」と「地元企業や地域のリソース」のマッチングを促進する場を提供する。
同大学はコロナ禍の感染拡大を予防するため、オンラインを推進していたが、このところ福岡県内での感染数増加が比較的低水準に収まったため、学内での講義や活動を再開し、本施設もリアル(対面)でのサービスを再開した。
同大学は、九州沖縄地区に本社を置く企業の出身大学別社長数ランキング(2018年帝国データバンク調べ)において第3位にランクインしている。特にコンテンツ系に明るく、映像・音楽・漫画・ゲーム産業で活躍する人材を数多く輩出しているのが特徴だ。自身で起業するのとは別に、経営者の親を持つ学生も多いため、事業継承のサポートとしてのニーズが高い背景もある。
また、総合大学として芸術学部や建築都市工学部など豊富な学部があり、卒業生が会社の起業に限らず、デザイナーなどのフリーランス、個人事業主として活躍している割合も多いという。同施設では在学中の学生に限らず、既に独立開業している卒業生に向けた支援も行う。
オープンイノベーションセンター長の商学部 経営・流通学科准教授木村 隆之氏は、本施設の設立背景と役割について「従来、学内では起業についての学びの機会は商学部をはじめとする文系の学生向けがメインだった。本施設により、理系やデザインなどを専攻する学生にも学科の垣根を越えて、起業についての情報収集や相談、出会いの場を広げて欲しい」と語る。
(記者会見の様子。オープンイノベーションセンター長の商学部 経営・流通学科准教授 木村 隆之氏)
起業検討者と地域の交流創出と、メンターによる個別起業相談が特徴
学生にとって本施設の利用の魅力は主に2つ。
1つ目は、大学を通じ地域企業や金融機関と交流ができる点、2つ目にメンターによる個別起業相談を受けられる点が挙げられる。現状、大学生にとって企業との連携や研究開発は敷居が高い。特にコロナ禍により、起業を検討する学生を支援するイベント機会が減ったため、気軽に企業にアイデアを持ち寄るなどオープンに交流を持てる出会いの場の不足が課題にある。この出会いの場を補足する役割を、当施設が担う。
個別起業相談では、大学生の相談内容はさまざまで、「このコンセプトで起業はできますか?」という初期のものから、事業計画書を持参して具体的な相談を行うものまで多岐にわたるという。相談を受けるメンターには、起業家や法律専門家など実践的なサポートを行える人材がそろう。既に本年4月1日からオンラインで相談会を実施し、多数の相談に対応している。また、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されている福岡市の東区に拠点を置く同大学の強みを活かして、福岡市スタートアップカフェとの連携も進めていく。
(7月16日に開催されたオープニングセレモニーの様子。感染予防の観点からオンラインで配信が行われた)
同施設にて開催されたオープニングセレモニーで、卒業生代表としてソフトウェアとハードウェアの開発を行う株式会社グラモ創業者、代表取締役の後藤功氏は、自身が在学時代に学内の仲間と起業を試みたものの、方法がわからず挫折してしまった経験を踏まえ、「本施設が起業を目指す学生の支えとなる」と期待感を話している。
(施設には可動式の椅子やホワイトボードが設置されており、野外でのイベントにも利用できるようになっている)
アントレプレナーシップを発揮する人材を育成
同施設の利用は起業を目指す学生に限らず、卒業後の進路に一般企業を選ぶ学生にとってもメリットはあるという。「大学が従来から築いてきたつながりを活かして、大企業だけではなく、町内会など地域の声を拾っていく役割をもっていきたい。起業の目標数などあえて掲げず、学生のアントレプレナーシップを育てることを目標としている。アントレプレナーシップとは起業家精神と翻訳されることが多いが、学生が卒業後に一般企業の就職を選んだとしても、組織の中で起業家精神を発揮できる人材を育成するのも目的の一つでもある」(木村氏)
同大学の起業家育成の先駆けとなり、2002年から開講しているベンチャービジネス論には、明星和楽実行委員長の松口健司氏の登壇が12月4日(金)に決定している。また、同大学は、本年12月19日(土)にも日本政策金融公庫と連携し、第5回ソーシャルビジネスプランコンテストを開催する予定で、同施設との相乗効果を生みつつ学生の起業やアントレプレナーシップの育成をサポートしていく。
起業やスタートアップの支援の充実を目指す福岡市。今回のオープンイノベーションセンター開設により産学官の連携が深まり、その勢いがさらに増すことに期待が高まる。