「世界からお酒の不公平をなくす」ゲコノミクス市場の開拓者、播磨 直希〜特集:福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代〜

「世界からお酒の不公平をなくす」ゲコノミクス市場の開拓者、播磨 直希〜特集:福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代〜
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5月に発表したあるプレスリリースにSNSで反響が広がった。福岡市に本社を置き、飲食店向けのノンアルコール・クラフトドリンクブランドを運営するYOILABO株式会社の1stプロダクト「Pairing Tea」の予約販売を開始するリリースだ。それを皮切りに、日本経済新聞など各メディアも報じた。スタートアップが初めて販売する新商品に、なぜ反応が集まりメディアも注目したのか? 背景には、お酒を飲まない方の外食でかかえる課題がある。今、ゲコノミクス(下戸の市場)は市場規模約3000億円※と試算され関心を集めている。その開拓者として期待される福岡発のスタートアップがYOILABO株式会社だ。

福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代特集は、福岡スタートアップで働く若手メンバーにスポットライトを当て、彼ら彼女らは何を考えスタートアップで挑戦を決めたのか? そして、この先の未来をどのように見据えているのか? を探っていく。第5回目は、YOILABO株式会社代表の播磨 直希さんにお話をうかがった。

※「ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ! 」参照

IT起業家に憧れ、福岡の大学卒業後に上京

いつからスタートアップに興味をもたれていたんでしょうか?

学生の時ですね。高校時代から自分で会社をつくりたいという想いはありましたが、大学の時にドラマ「リッチマン、プアウーマン」を見てIT起業家に憧れて、最初に行動を起こしたのがきっかけです。当時はプログラミングを知らなかったので、タイピングを1日2時間ひたすら練習するところから始めました。

僕は今28歳ですが、学生時代は福岡市でスタートアップや起業に興味がある学生は少数でした。本気でスタートアップに興味をもったのは、起業家向けのピッチイベント(事業内容をプレゼンテーションするイベント)に出場したのがきっかけですね。現実的に起業する方が評価され、出場したものの出てくる単語もわからず、惨敗して。悔しい思いをしました。

それをきっかけに、福岡のベンチャー企業で1年修業しました。大学卒業前には、ワークスアプリケーションズという大手企業向けのシステムを販売している会社でのインターン経験を機に「一番厳しい状況に身を置きつつ、東京の景色を見てみたい」と思うようになり、そのまま入社を決め上京しました。そこでエンジニアリングでの開発や法人営業を経験する中で、福岡の良さに気付いて戻る決断をし、学生時代にお付き合いさせていただいていた福岡のスタートアップのウミーベに入社したんです。その後、福岡のスタートアップ、ニューワールドでマーケティング責任者を経て、起業し今に至ります。

飲まない人のスタンダードを目指す

YOILABO株式会社を立ち上げた背景について教えてください。

僕はお酒がすごく大好きで、お酒の場をよりよくするものをつくりたいという想いがあってYOILABOを立ち上げました。YOILABOとしているのは、ドリンクに限らずサービスや場所を提供するという意味も込めています。今回販売を発表した最初のプロダクト「Pairing Tea」が完成する前に、実は別のプロダクトをつくっていたんですよ。創業する前になりますが、二日酔いに効く商品をつくっていて。ヒアリングをしていく中で「そもそも飲まないといけない状況がおかしいじゃないか?」と気付いて、そこから2~3回商品を変えた後に、お酒を飲まない方の課題解決にフォーカスした経緯があります。

お酒を飲まない方にとって、どのような課題があったのでしょうか?

お酒を飲まない方にとっての課題は「選択肢」、「お酒を飲む方との割り勘」、「飲めない=ダサいという空気感」の3つがあります。今はお酒を飲まない方が飲食店や居酒屋に行くと、飲む選択肢は限られます。お酒は数十種類はあるのに対して、ほとんどの店がソフトドリンクはウーロン茶、コーラ、オレンジジュースしかないという現状です。飲まない方だけ選択肢が少ないんですよ。

(画像:記事「なぜお酒好きのぼくがノンアルコールスタートアップで挑むのか」より引用)

そして、選択肢が無い中で、お酒を飲んだ方と割り勘になることもあり、不公平な状況にも課題があります。最後は、飲まない=ダサいという空気感です。飲めない方がアルコールを強要されることはあると思うのですが、そういう行為自体が「ダサい」と思われる空気感にしていきたいと考えています。

(画像:記事「なぜお酒好きのぼくがノンアルコールスタートアップで挑むのか」より引用)

そういった課題を解決していくために、選択肢を増やす一つの手段がノンアルコールドリンクでのペアリングです。ペアリングは、料理に対して最も相性のいいドリンクをペアとして合わせることで、関東ではワインや日本酒でペアリングを楽しむ考えは当たり前になりつつあり、福岡でもフレンチを中心に広がってきています。

このアルコールをメインに行われているペアリングの概念をノンアルコールに落とし込み「世界からお酒の不公平をなくす」というYOILABOのミッションに沿って、飲まない人のスタンダードになりうるものを目指してPairing Teaを販売します。

約1年の試行錯誤の開発期間を経て、外部の詳しい方に意見を聞きつつ、飲料メーカーに開発を委託し完成しました。清涼飲料水の製品化には殺菌基準など法令上満たすべき基準が多く、実現したい味わいを再現するのには苦労しました。数十回のやり直しを繰り返しつつも、素晴らしいパートナーの方々に出会えて実現することができました。

(画像:YOILABO公式サイトより引用)

(味、香り、質感をふまえて食材の特性ごとにペアリングするノンアルコール・クラフトドリンク「PairingTea」。)

都内の視座を持ちつつ福岡で起業する

東京の視座を持ちつつ福岡で起業し、福岡を起業の拠点とするメリットは何だったのでしょうか?

スタートアップは成長のフェーズにより考え方は違うのですが、シード(スタートアップの立ち上げの段階)の商品開発では「マスの目線」が必要だと考えています。福岡は、限られたコミュニティから視野を広げてマスの目線を持つ目的や、ランニングコスト(家賃コスト等)の面で魅力的でした。

ただ東京のほうがスタートアップの立ち上げや資金調達面は充実しており、イグジット(上場や売却)している起業家も多く、近くにそういった先輩がいることもあり視座がかなり高い若手起業家が多いのも事実です。

そういったことを正しく理解しつつ、メリット・デメリットを正しく把握する。その上で東京の視座の高さを持って福岡で起業すれば、資金調達や情報面でも全くデメリットは無いと思っています。

実際にリリースを出した後は、関東を中心に問い合わせも多くいただいています。長野や新潟などのホテルや寿司屋など地方からの問い合わせもあるんですよ。オンラインやメディアを通したつながりがあれば、拠点はどこに置いても一緒だという印象もあります。ありがたいことに、フレンチレストランなどその道のプロの方から、コラボレーションや一緒にやりたいというお声もいただいていますね。

(ベンチャーキャピタルのドーガン・ベータからの資金調達に加えて、エンジェル投資家から総額約2500万円の資金調達を行った。エンジェル投資家には、スタートアップに知見があり、事業のシナジー効果も期待できる投資家が並ぶ)

プレスリリースは反響が大きかったようですが、どんな工夫をされたのでしょうか?

2つ大事なポイントがあります。「マーケティングの知識」と「リリース前の行動」です。僕はマーケティング知識が一番大きいと考えていますね。コンセプトのところからマーケティングの知識をしっかりと持って取り組んだことが反響をいただいた背景にあります。

弊社のマーケティングでは、どこまでもマーケットイン(買い手の立場で必要とするものを提供する手法)でユーザーが欲しいものをつくっていくことを大事にしていますね。プロダクトアウト(技術や製造設備などの提供側からの発想で商品開発をする手法)でこういうものをつくりましたという発想は結構あると思うのですが、「ユーザーがどういうモノが欲しいか?」を徹底的にヒアリングして「こういうモノ、欲しかったですよね?」という出し方をするのが大事だと思っていて、そこにはこだわりました。

2つ目のリリース前の行動ですが、今回はリリースを出す前に、都内の先輩起業家を通して記者さんに連絡させていただいたり、いろいろと教えていただいたりしました。これは、前職のウミーベ代表の渡部一紀さんの後ろ姿から学ばせていただいた経験が大きかったです。

(現在は食前・魚料理・肉料理にペアリングする3種を展開するPairingTea。「こちらのFOR RED MEATは肉料理とのペアリングに最適。ダージリンティーをベースとし、ハイビスカスの華やかで上品な酸味が特徴で、ジンの原料になる『ジュニパーベリー(ヒノキのような深い香りがする実)』を起点にカカオの香ばしさを加えています」(播磨さん)トータルデザインとは別にノスタルジックなイラストデザインを阿部結氏が担当する。)

たくさんの方々のペイフォワードに支えられ、今がある

起業を考えている若手世代にメッセージをお願いします。

一発目の起業は失敗するモノだという気持ちも持っておいた方がいいと思います。僕も一発目の起業ですが、起業前の下積みが長かったので。それでも苦労の連続で、365日事業のことを考えて眠れない日々もありました。僕の場合は株式での資金調達の前に、金融機関から融資を借りたことで責任感が生まれて、商品化まで乗り切れたというのもありますが、融資は個人保証なので、リスクも伴います。会社を失敗しても、働いて返すという気概がなければ厳しいです。

僕は、今回の株式での資金調達ではお金を出してくれる方というよりも、これからお付き合いさせていただきたい方を選んで投資していただきました。投資家の方を含め、ペイフォワード(誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送ること)の精神が多い方が回りに本当に多くて、感謝しています。自分に何のメリットも無いのに協力していただいて。僕一人では何もできなかったと思います。僕もこれから起業する方に対しては、積極的にそういうことをやってあげたいなと思っています。

最後に、YOILABOが目指すゴールとは何でしょうか?

一つのゴールにしているのは、「飲めない=ダサい」から、「飲まない=かっこいい」のレベルまで上げていくことです。YOILABOというイケてる会社があって、そのプロダクトがあって、そのプロダクトを使っているやつが最高にイケてると第一想起されるブランドになっていきたいと想っています。そのために絶対条件となるのが、おいしいモノであること。デザインやコンセプトも常に最大限を目指して、今後も挑戦していきます。

現在は飲食店向けの販売に絞っているが、今後は個人向けの新商品販売も予定し、ノンアルコールドリンクの開発を進めるYOILABO。お酒を飲まない方の外食での選択肢が広がり、飲食店にとっても顧客単価の向上が期待できる双方に嬉しいサービスだ。今後も明星和楽では、福岡スタートアップカルチャーで働く若者を特集し、応援していく。