花業界が今変革に走り出した。Floritechの立役者、Yuya Roy Komatsu 〜特集 福岡のスタートアップカルチャーが生んだ次世代

花業界が今変革に走り出した。Floritechの立役者、Yuya Roy Komatsu 〜特集 福岡のスタートアップカルチャーが生んだ次世代
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福岡県の花の産出額は全国3位と、全国的に見ても花の生産が盛んな地域であることをご存知だろうか? その福岡に本社を置き、スマ-トフォンだけで花農家と花屋をつなぎ、直接取引を可能にするプラットフォームサービスを展開する「CAVIN(キャビン)」。福岡県中心部を対象に2020年6月からα版をローンチ。ローンチからわずか3カ月で福岡県中心部の対象エリアで3分の1以上の花屋が登録し、反響を呼ぶ。「こんなサービスを待っていた」という利用者の声が上がった。背景には既存の流通から仕入れる手段とは別に、仕入れの選択の自由が生まれることへの期待がある。

福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代特集は、福岡スタートアップで働く若手メンバーにスポットライトを当て、彼ら彼女らは何を考えスタートアップで挑戦を決めたのか? そして、この先の未来をどのように見据えているのか? を探っていく。第6回目は、株式会社CAVIN 代表取締役社長CEOのYuya Roy Komatsuさんに、逆境に負けないアントレプレナーシップ(起業家精神)が生まれた理由をうかがう。

フィリピンスラム地区でのボランティア、起業の聖地カリフォルニアで気付いた「日本に必要なのは、素直な気持ちを表す」ということ

プロフィールを教えてください。

大阪出身で、子どもの頃には阪神大震災を経験しています。その後アメリカのバージニア州で幼少期を過ごし、帰国後は福岡の西南高校を卒業。19歳の頃にフィリピンの最貧地区でボランティアをしました。そこで見たのは「物質的な豊かさと人の幸せは一致しない」ということでした。

帰国後は青山学院大学に進学しました。そこで「日本はお金持ちの国なのに幸せとは限らない」ことに気付き、起業家として変えたいと思いました。やるからにはトップでなければという負けず嫌いな性格もあり、スタートアップのメッカで文化から学ぶため死ぬほど勉強してカルフォルニア大学に進学しました。在学中は大学での勉強に加えて、有名アクセラレーター※にも入りました。そこに入った初日から、一瞬にして本で読む知識と現場の知恵は全く別物だと痛感しました。

※米最古名門アクセラレーター Techstarsが米最大手ファンドBlackstoneと開くアクセラレーター、Blackstone launchpadでのインターン経験

だから、そこからは大学講義で座学としてしっかり学ぶ傍、アクセラレーターではスタートアップの原理原則を体感し、世界的起業家や様々な国の優れた起業家達と触れ合うことで、世界最高峰のスタートアップの常識を身体に染み込ませました。
これが今CAVINに根付いている「現場主義」と「グローバル志向」につながっています。

あとは、週8でサーフィンをしていましたね(笑)唯一の息抜きでした。早朝サーフィン。そこから授業に向かい、夕方またサーフィン。夜は図書館で夜中まで猛勉強。そんなタフな日々でした。

学業の成績も落とすわけにはいかないので、ひたすら集中とバイタルで乗り切ってきた記憶です。世界でもトップクラスの大学だったので、クラスメイトは東大やオックスフォード大など各国のトップ大学から集まっている猛者達でした。そのため非常にシビアな世界でしたが、自分で臨んだ道だったので過酷な日々も充実していましたね。親友達はGoogle本社やマッキンゼー本社、ドイツ銀行など世界的な有名企業に進んでいます。

そして何より良かったのが、大学のカフェテリアです。本当に最高でした。あの環境では当たり前のように「どうやったら自分たちは世界を一歩でも前進させられるのか」という会話がされています。貧国から奨学金できている人、世界的財閥の息子、ハリウッド女優、色々いました。その人達が世界を変える方法を話し合うと、本当に世界が動き出すんです。自分が選んだ道は正解だなと、日々感謝しながらエキサイティングに過ごした大学生活でしたね。

被災地での復興プロジェクトで確信した心の豊かさの必要性

花で行動を起こし始めたのはいつですか?

カルフォルニアに居た時に熊本の震災をYouTubeで見て、復興プロジェクトを企画したのがきっかけです。阪神の震災時は子どもだったので、熊本の震災では何かしたいと思ったんです。その企画では、生活必需品など物資の供給ではなく花を贈りました。そしたら、熊本の人達がとても喜んでくださった。震災で気持ちが落ち込んでいた熊本の人達に必要だったのは「心の豊かさ」だったんですよ。その経験が今でも印象に残っています。

しかし、これは有事の時だけの課題ではないと思っています。「心の豊かさ」は日本全体の課題だと感じています。今この国で問われているのは、物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさ。

日本は幸福度が去年58位で、今年は世界62位。これは過去最低です。自殺率はワースト6位。ワースト10に入っている先進国は日本と韓国だけです。下がり続ける幸福度を考えると、今まで無駄だと考えられていたものこそが実は必要なのだと思います。今まで持ってたけど手放してしまったもの、それこそが僕は人の繋がりだと思っています。僕はこれを解決したい、花を使って。

僕は1992年の生まれで、バブルが崩壊した年に生まれた世代なので景気が良い日本というものを知りません。今の若者世代が「十年後の壮大な夢よりも、明日のバイト代」となってしまうのはしょうがないことだと思うんです。でも、コスパ、コスパという言葉を若者がいう姿は非常に残念に思います。愛すべき無駄こそが、人間を人間たらしめると思うので。夕焼けに向かって、吠えるのは人間だけですから(笑)

そして、僕たち若者が失った最大のものが「コミュニケーションの質」。なぜ花を選んだかの答えは、ここにあります。花でなくてはならない理由があった。

事業アイデアを100程考えていく中で「綺麗だと思う自然の物で、手に取れる物」に的を絞りました。でも殆どないんですよね。夕日、青空、海は全部手に取れない。

そんな中で3つ対象になったのが「宝石、貝、花」でした。宝石は希少性から綺麗だと感じる。僕は誰でも手に取れるものが良かった。だから宝石はちょっと難しい。残ったのが、貝と花。これら二つが綺麗に見える理由は黄金比だと聞いたことがあります。言い換えると、貝と花は人間がDNAレベルで綺麗と思うようにできている。つまり、これは不変なものなんです。500年前の人も、現代の人もブラジル人も、インド人も、日本人も、カナダ人もおじいちゃんも、女子も皆が綺麗と思う。こんなデザイン半端じゃないです(笑)

そして残った二つのうち、貝ではなく花にした理由は「時間の幅が、花にはあるから」でした。貝って10年経っても変わらない。今日見ても、十年後見ても同じ。一方で花は必ず枯れる。言い換えると、今日綺麗な花が三日後も綺麗に咲いている場合、そこは必ず「理由」がある。

誰かが水換えをしてくれたからかもしれないし、誰かが花瓶を洗ってくれたからかもしれない。つまり、花は裏側にあるストーリーを想像させてくれる。想像力を鍛えることができる。すなわち、心を育むことができると思います。これこそが、僕らの世代、これからの時代に必要なものだと思っています。

想像力が育つということは言い換えると「こんな言葉を言ったら相手はどう感じるかな?」
ということを想像できるようになります。コミュニケーションにおいて、現状は、メッセージアプリなどでコミュニケーションの量が加速しました。しかし、その結果、顔が見えない相手に送るメッセージが人を傷つけるという新たな問題が生まれました。ひどい場合には、学校でのいじめや、自殺に繋がっています。

そこで、これからはコミュニケーションの質を上げる段階だと確信しています。相手の気持ちを想像できる、想像力、情緒、心を育む必要がある。そのためには、貝ではなく、時間の幅を持つ花でなければならなかった。

ここで花に決定したのですが、実は僕が先ほど「手に取れる」綺麗なものと言ったと思うんですけど、それも起業家としては非常に重要なことでした。手に取れるということは、誰かに贈れる。つまり贈与経済に繋がります。

今、世界がこぞって研究しているギフトエコノミー。自分で買うより、誰かに贈る方が幸せになると言ったマーケットです。研究が進んでいるということは、必然的に今後マーケットも大きくなる。

仲間が死んだ時に、花をお墓に添えた瞬間が人間の誕生だと定義する方もいます。世界最古のギフトである花が、TAM(市場における製品またはサービスの総需要)8兆円市場というのは偶然ではなく必然だと思うのです。スタートアップはドリームビッグですから! マーケットとしても熱いです。

「普遍的な自然の美しさ、時間の幅がわかる生き物、誰かに贈れる」この三つを考えると花しかありませんでした。
花を選んだ理由はこれです。

従来の花の流通とCAVINは何が違うのでしょうか?

花が一般消費者の手元に届くのには、従来4つの段階を経ることが必要でした。花農家から、市場へ、次に卸売りに行き、そこから花屋さん(小売)、最後に一般消費者にという流れです。僕らのサービスによって、花農家さんから直接花屋さんにつなぐことができるので、九州の花農家さんと福岡の中心部をつなぎ、地産地消が可能になっていっています。今までは地産地消に限らず、他の県に花が運ばれ福岡に戻ってくるという非効率な部分もあったんです。
また、CAVINでは花屋さんと花農家さんの両方にとって良いサービスになるように心がけました。古来から伝わる三方良しの考えです。具体的には、花農家さんの言い値で取引できるメリットがあります。従来の流通だと、例えば花農家さんが100円で売れたら良いと思っていた花が、卸売でいくらになるかわからず、極端な話、1円で取引されてしまうこともあるんです。これでは在庫を破棄した状態と同じです。丹精込めて作られた花がそれではあまりに悲しい。非常に勿体無い。

花屋さんにとっても、競りだと値動きがあり見通しがつかない花の価格が、CAVINでは見通しがつくようになるメリットがあります。必要な時に必要な分だけ流通させる仕組みがつくられるようになり、需要と供給の部分が上手く回転し、花屋さんと花農家さんの両方にとって良いサービスになりました。

ユーザーと花業界を一緒につくっていく使命感

ユーザーの反響はいかがですか?

反響はめちゃくちゃ良いですね。「CAVINを通して買いたいから、花農家さんにもっとCAVINにも商品を載せるように言っといて」とお声をいただいたり、「鮮度が抜群に良い」と褒められたりします。僕らの特徴は、ユーザーの方々と業界を一緒に育てるという点です。

「お金があればしたいこと」ではなく「できるのに誰もしなかったこと」に最初に勇気を持って取り掛かる。それこそが起業家がファーストペンギンと呼ばれる理由。

今後もし花業界のDX参入が続々と発生し始めたら、それこそが起業家として初めて日の目を浴びる瞬間だと思います。僕たちの仮説は業界の人から見ても正しかったということなので。マーケットの存在証明にもなりますね。切磋琢磨しながらガンガン皆で業界を活気付けていきたいです。

まだ誰もやっていないことなので、サービスをローンチしたばかりはバグも起きるしユーザーメリットも少なかったかもしれない。しかし、初期から参加してくださった方々はCAVINのサービスに共感してもらったから使い続けてくださったと考えています。本当に感謝してもしきれません。結果、今は花屋さんと花農家さんを巻き込んで、さまざまな企画を進めています。

(CAVINが開催したイベントの様子)

ロゴについて教えてください。

自社のロゴデザインについてはとてもこだわりをもっています。CAVINのロゴに込められた意味はクラシック、温かみです。僕は、機能をもったらデザインだと思っているんです。デザインを考えるというのは「人の行動を考えるということ」につながります。
今使っているロゴに至るまで、試行錯誤を繰り返して1年くらいかかりました。

 

 

CAVINのロゴを手押車にしているのは、ITぽくない、クラシックな雰囲気にしたいと思ったからです。一般的にITは無機質になりがちですが、花がもっている良さ、温かみを伝えるために、古き良きをテーマにしたかったんです。

手押車は今世の中が向かっているIT化と真逆のイメージがありませんか? 手押車は速い・便利の真逆ですが、押している人が想像できるんです。手押車を見たら誰かのために運んでいることがイメージできるので、花に乗った人の思いを運ぶメッセージを伝えたいと想い、クラシックを組み合わせてこのロゴを選びました。

花農家さんや花屋さんからロゴに込めた想いを記事などを通して知っていただいた際に「初心を思いだしたよ」「なぜ花屋を始めたのか思いだしたよ」と言っていただいて、とても嬉しかったですね。
人が想いを伝える時に背中を優しく花で押せるように。「花に乗った想いを運ぶ会社になるように」という願いを込めてロゴを手押し車に。「花に乗った想いを汲み取れる会社になるように」という願いを込めて名前を「花瓶=CAVIN」としました。便利さよりも、豊かさを作っていける会社になれば本望です。

(Fukuoka Growth Next (フクオカグロースネクスト)内に本社を置くCAVIN。看板を博多絵師の雄猿さんが手彫りで制作した。)

起業家に必要なのは「心意気」

この環境下で、起業を目指す若手世代の中にはどう動いたら良いのか悩んでいらっしゃる方も多いと思います。読者の方にメッセージをいただけますでしょうか?

(創業前はカフェで打ち合わせを重ねた)

絶対にオススメしません(笑) あまりにストレス値が半端じゃないので。満たされた時代なので、他の生き方は沢山あります。しかし、もし起業家でなければならない理由がそこにあるなら、迷わずなった方がいい。もう、今日なった方がいい(笑) 1秒でも迷う時間が勿体無い。最高に楽しいです。

僕がカリフォルニアに居た頃には、名門アクセラレーターでインターンをしていました。そこで感じたのは、起業家と事業家は全然違うということです。起業家は、社会の何かしらの課題をビジネスという道具を使って解決する使命をもっている人だと考えています。起業家とは「流行のブランディング」や「こういう基準を満たした人といったルール」ではなく、「心意気」の話だと思っています。

さらに、僕はそもそも起業家は少なければ少ないほど良いと思っています。
社会に課題は少なければ少ないほどいいですから。でもこれは理想論で、前に進み続ける以上課題が無くなるなんてことはありえないので、社会のファンクション(機能)の一つとして起業家は必要だと思っています。

お伝えしたいのは、とにかく理由が大切。とりあえず起業したいとか、社長になりたいからとかにしては、あまりにハードなのが起業家です。でも、理由がそこにあるなら、絶対になった方がいい。

絶対にお勧めしないけど、こんなにも人生を色付けてくれる、最高に面白い生き方だと思います。あとは、健康第一ですね(笑)

最後に小松さんがなぜ挑戦を続けられるのか理由を教えていただけますか?

(「僕たちは花業界以外の出身者で初期メンバーを構成していますが、こいつら花めっちゃ好きやんというのが伝われば嬉しいです」と小松さん)

僕は、一人でできるなら一人でやっているんです、今頃。今があるのは、まずは、チームのメンバー。そしてユーザーの方々、最後にその他の応援してくださる方々のおかげです。彼らには感謝してもしきれません。この場を借りて、普段支えてくれるメンバーの皆に感謝を伝えさせてください。

今いるメンバーは、これだけ豊かで選択肢がある国でわざわざCAVINを選んでくれた人達です。だから、100%メンバーには起業家の気質があると思っています。だから、CEOの僕だけが起業家!としてスポットライトが当たるのは僕は違うと思っています。彼らがいないと今後の僕の挑戦は絶対に成し遂げられません。たった一人の変人を、リーダーに変えてくれたのは間違いなく彼らでした。本当に、皆ありがとう。

そして、これはユーザーにも言えると思っています。サービスの初期で入ってもらったユーザーの方々は100%応援したいという想いで使ってくださったと思います。やはり彼らも、変革者です。だから今後も、花農家さん、花屋さん、CAVIN、投資家の皆さん、メデイアの皆さん、その他、全部を含めたチームとして花業界を変えていく挑戦を続けていきたいと思っています。

 

冷静な頭脳、情熱の心。
今日はありがとうございました。

CAVINは仲間とともにレガシーな業界に挑む。新たな花流通の選択肢は多方面の人々から期待と応援を集め、さらなる高みを目指す。明星和楽では、今後も挑戦を続ける若手スタートアップを応援していく。