「デザインは良いモノを創るためのマインドセット」デザイナー起業家、吉岡泰之〜特集:福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代〜

「デザインは良いモノを創るためのマインドセット」デザイナー起業家、吉岡泰之〜特集:福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代〜
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福岡スタートアップカルチャーが産んだ次世代特集は、福岡スタートアップで働く若手メンバーにスポットライトを当て、彼ら彼女らは何を考えスタートアップで挑戦を決めたのか? そして、この先の未来をどのように見据えているのか? を探っていく。第4回目は、官民共同のスタートアップ創業支援施設FUKUOKA GROWTH NEXT(以下FGN)入居企業で、WEBサイト、WEBサービス、モバイルアプリのUI(ユーザーインターフェイス)・UX(ユーザーエクスペリエンス)の設計といったデザイン全般を提供する株式会社gazに注目する。

gazの提供するサービスは多岐にわたり、gazのデザイナーが定額制でデザインを担当するサービス「beaverin」をはじめ、6万人のユーザーが利用する次世代webデザインツール「STUDIO」でSTUDIO株式会社公認の制作会社として、WEBサイト制作代行サービスを手がけている。さらに、4月にリニューアルした福岡市公式のLINEアカウント(約165万人が登録)の新デザインをLINE Fukuoka株式会社との共働のもと担当。コロナ禍で行政の情報を求める人が増加する中でUI・UXをユーザーにより使いやすく改善したことが注目を集める。福岡を拠点に、創業して1年を迎えたばかりの組織がなぜここまで躍進できるのだろうか? その理由に迫るべく、株式会社gaz代表取締役CEO吉岡泰之さんにお話をうかがう。

福岡のスタートアップをデザインで支援できるチームを創る

吉岡さんのプロフィール、gazを立ち上げた背景について教えてください。

学生時代からフリーランスでデザイナーを始め、新卒でZOZOグループ傘下の株式会社アラタナで、EC(自社や他社の商品やサービスを、インターネット上の独自運営のWEBサイトで販売するサイトのこと)のUIデザインを専門に働いていました。その後、2017年に福岡のスタートアップPear inc.にCDO(最高デザイン責任者)としてジョインしたんです。そこで、デザイン業務と並行し、採用チームの立ち上げや、組織マネジメント業務を経験しました。昨年6月に起業し、株式会社gazを設立して今に至ります。

立ち上げの背景は、福岡のスタートアップやそれ以外の新規立ち上げなどもを含め、デザインで支援できるチームが足りていないことに課題を感じたのがきっかけです。福岡には都市全体で新しいチャレンジを起こしていく風潮を感じています。スマートシティーを目指して改革が進んでいますし、起業をする方も多いです。入居しているFGNでもその空気を感じていますね。その環境下でも、東京やシリコンバレーに比較すると、デザインでプロダクトやサービスをブラッシュアップする思想が、そこまで浸透していないことに強い課題感がありました。

福岡にデザインの制作会社はあるのですが、UI・UXの領域でスタートアップやそれ以外の事業の新規立ち上げを推し進められるチームや人材はまだまだ足りていない状況だと思います。そこで、UIデザインを事業のメインにして会社を起こすことを決めました。

「人は育つ」、デザイナーが活躍できる受け皿を創る

デザインに関わる人材が足りていない中、立ちあげて1年でどのようにチームを創っているのでしょうか?

gazのチームは、半分は未経験者からの採用です。福岡にはUI・UXデザインの領域に特化した教育機関はまだほとんどありません。webの専門学校でも、この領域が整っているところは少ないと思います。それであれば、自分が学生も巻き込んでデザイナーを育てていこうと決め、未経験者でも積極的に採用しています。福岡という土地の魅力から移住者も増えていて、UI・UXの受け皿が整っていけば将来的には東京や海外から人を採用することもできると考えています。

採用の基準は何なのでしょうか?

よくデザイナーは誰でもなれるなどの広告などを目にするのですが、誰でもデザイナーになれるとは僕は思っていません。募集をしてまずは一緒に働いたり会って話しをしたりした中で「良いデザイナーになりそうだな」と感じた方と今は一緒に働いています。

採用には僕の中で、4つの基準を決めています。1つ目は、ビジネスマンに共通するところはあると思いますが「地頭の良さ」です。ビジネスの話や経営、社会の動きについて行けるかどうか、頭の回転のスピードを大事にしています。2つ目はコミュニケーション。抽象的なようですが、gazのデザイナーとして「優しさ」みたいなところも重視しています。3つ目は「スピード」ですね。課題があったときにそれを見つけるスピードや、思考、改善するスピード、前進するスピードなどを見ています。

この基礎的な基準にプラスして「ロジック」と「センス」のバランスも見ています。ロジックはロジカルに物事を捉えて仕組みを自分の中でつくって他のことに応用できることや、データをもとに仮説を立てて物事を推し進められる能力のことですね。センスは後天的に、全くの0の状態からはなかなか身につかないと思っています。普段の生活で養われると思っていて「何をカッコいいと思って、何を美しいと思うか?」という感性や、抽象的なモノをそのまま抽象的に捉える感覚をどのくらい持っているのか、ロジックとセンスのバランスはどうなのかを見て、採用しています。どちらが優れているとかとかそういう話ではなくて、バランスが良いから採用するわけでもなく、デザインファームとしてチームでバランスが取れていればそれで良いと思っています。

もちろんデザイナーとしてバランスが片寄った方も必要だと思いますが、gazがチームのバランスを重視する理由は、スタートアップの支援をする際に幅広い領域が求められるためです。ロジックを持っていないとロジカルな機能設計ができませんし、センスが無いと心を動かすビジュアルはつくれません。1:9でも2:8でもいいのでどちらの感覚も持ち合わせている人を採用しています。

0からモノをつくって売ってみることでデザイナーとして成長する

実際にスタートアップの方から相談を受けた際の対応を教えてください。

スタートアップの方から相談を受ける際には「どういう想いで事業を始められるのか」「どういう枠組みでこれから事業をやっていくのか」を相手から聞くことをメインに始めます。全部お話を聞いた上で、デザイン的に競合の有無などを含め、現実的に実行可能な提案をしていきます。例えば、競合が多い場合にUXや細部のデザインに振り切った設計を提案することもありますし、逆に競合がいない領域なら機能に振り切ってよりスピード感を持って最低限価値提供できるものを提案するといったイメージです。前提として、スタートアップでリソース、キャッシュに余裕がある会社は存在しないので、最速で次のラウンド(スタートアップの資金調達の段階を示す基準)に向かうための最適解を1日でも早く見つける必要があります。

デザインというと、日本では綺麗なビジュアルを指すというイメージも先行していると思いますが、デザインとは何なのでしょうか?

デザインは色形だけではなく、右脳と左脳を行き来して物事を前に押し進めるマインドセットだと思っています。時にはマーケティングの力が必要であったり、時にはビジュアルが必要であったり、複合的に様々な領域のバランスを取り、プロジェクトを前進させるためのノウハウや思想、思考回路がデザインと呼ばれているところなんじゃないかと思っています。

海外との差分で言うと、シリコンバレーと比較するなら数の違いですね。スタートアップもデザインファームも圧倒的に数が違いますから、ナレッジやノウハウに差が出てくるというのはあると思います。

ビジュアル以外のデザインの力はどうやったら育てられるのでしょうか?

0からモノをつくって売ってみることが一番早いと思います。スタートアップのデザインやUXの職に就く場合には0からモノをつくって売って、お金や経済、組織のことを実際にやってみて、その領域の中で自分が能力を発揮できるのがどの部分なのか、夢中になれることを掘り下げて考えていくことが大事だと思います。やりたいことを夢中でやれた人が、結果的にデザイナーになるのだと思います。領域が広いので、夢中になれて好きでないとやっていけない仕事ですね。

STUDIO株式会社は都内の会社ですが、公認の制作会社になられたきっかけを教えていただけますか?

代表の石井さんとは最初、福岡で会いました。昨年に登壇したイベントで僕がSTUDIOをお勧めのツールとして話したことがきっかけで、参加者の方から紹介していただいて仲良くなって。そこから福岡で一緒にワークショップをする機会をいただき、STUDIO公式アンバサダーになることが決まりました。全国でスタジオ公式のアンバサダーは個人がメインで10名前後いらっしゃるのですが、法人で公認の制作会社になったのは僕らが初めてなんですよ。STUDIO愛とデザインのクオリエィや考え方を認めていただいたことが理由だと思っています。石井さんはもともととてもハイレベルなオールラウンド型のデザイナーであり起業家なので、認めていただいたことは嬉しかったですね。


( コロナ禍でいち早く情報のまとめサイトを作成し、無償で提供したgaz)

人生を良くするために仕事というものがある。それをかなえる土地として福岡を選んだ

起業して、チームとして目指したい世界は何なのでしょうか?

起業する前に地元の福岡に帰ってきたとき、「仕事が楽しくない」という同級生が多かったんです。「楽して稼げる仕事は無いのかな?」という思考になりつつあって。「土日が楽しくて平日は楽しくない」という声を聞いて、起業してそれを変えられるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

働くのがめちゃくちゃ楽しいし、プライベートも楽しい。人生が楽しいので双方の隔たりがほとんど無くなって、人生を良くするために仕事というものがあるという世界を目指して会社をつくりました。

福岡を拠点とするメリットはありますか?

福岡が好きだから居るというよりは、拠点を福岡に置くことにメリットがあるので今は拠点をおいています。スタートアップの勢いがあり、コンパクトシティという魅力があることや、アジアとの距離も加味した上でベストなチョイスだと思っています。自然が近いことで、気軽にキャンプにも行けます。プライベートがアクティブに過ごせる環境は、クリエイターとしても良いアウトプットを出す糧になると考えていますね。

起業を考えている若手世代にメッセージをお願いします。

僕も先輩面できるほどの起業家ではないと思いますが、起業やチームが先行しない方が良いですね。起業したいとか、こんなチームでやりたいということが先行してもあまり良い結果にはならないと思います。「なぜやりたいのか」や、「何を本当に為し遂げたい」のか、「どういう状態を創りたい」のかを明確に持っていて、それを為し遂げるために会社を起こして、チームが必要であればつくる方が良いと思います。起業は長期的に見て自身が成長するメリットはありますが、ビジョンが無ければ無理に起業する必要は無いと思います。目的があって起業しようとしている方には、手段を提案することや、応援することはできると思うので、僕で良ければ相談していただくのは大歓迎です。連絡は会社ではなく僕のTwitterなどダイレクトにしていただければ。

(従業員のリモートワーク支援として、AirPods Proの支給など実施している)

最後に、吉岡さんの考えるデザインとは何でしょうか?

解釈によって違うと思いますが、デザインは良いモノを創るためのマインドセットだと僕は思っています。それ単体では何も生まれなくて、その思想や考え方でプロジェクトを進めることでモノがちゃんと価値化できたり良くなったりする。そういうマインドセットだと僕は思っています。

リモートワーク期間中にも、社内でアートワークディと題した「デザインを楽しむ日」を設定するなど、斬新な働き方を提案し続けるgaz。柔軟で圧倒的なスピード感をもって変革するクリエイティブチームが、福岡スタートアップの成長を支える。今後も明星和楽では、福岡スタートアップカルチャーで働く若者を特集し、応援していく。