【福岡モビリティ最前線】コンパクトシティが目指す移動の未来とは?

【福岡モビリティ最前線】コンパクトシティが目指す移動の未来とは?
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(九州大学キャンパス内を走行する電動キックボード)

半径2.5キロ圏内に空港と市街地が位置するコンパクトシティ福岡市。空港から市街地への交通アクセスの利便性は世界の主要都市のなかでも上位にランクインする。移動時間は、福岡空港から博多駅まで地下鉄で5分、天神までは10分。羽田から東京駅までの快速利用36分と比較しても短い。市街地から海や山までの移動も1時間程度で可能だ。そんな背景もあり、市民の移動に対する利便性への感度は高い。福岡の移動の未来はどこに向かうのか? 福岡モビリティの最前線を探った。

目的地までのラストワンマイルの移動手段

先月、10月20日に福岡市南区で全国に先駆け公道の普通自転車専用通行帯で電動キックボードの実証実験が開始された。株式会社mobby ride(福岡市)が経済産業省の「新事業特例制度」による認定を受け、電動キックボードの普通自転車専用通行帯の走行が可能となり実現した。電動キックボードは本来原動機付自転車(原付)扱いで普通自転車専用通行帯の通行は許されていない。しかし、今回は特例措置により、同社の車体のみ車道に加えて普通自転車専用通行帯を通行できる。同社は、2018年度福岡市の「実証実験フルサポート事業」に採択され、これまで市や地場企業と共同し、私有地や九州大学伊都キャンパス内などで3,000人以上の市民に向けた実証実験、体験会を開きニーズを調査してきた。

今回の実証実験はヘルメット着用やナンバープレート設置など行い、福岡市南区大橋駅周辺の公道、普通自転車専用通行帯で実施される。期間は来年3月末までで、安全性や利便性などを確認し、実用化を目指している。

(九州大学での実証実験の様子)

さらに同社は、福岡市内でシェアサイクルサービス「Charichari(以下、チャリチャリ)」を展開するneuet(東京都港区)との事業提携を発表していて、将来的に同一アプリ内でシェアサイクルとシェア型電動キックボードの利用や、ポートの併設を検討している。両社の提携により、利用者の移動の選択肢が増え、ラストワンマイル(公共交通移動後、目的地までの最終移動距離)の移動手段にシェアモビリティサービスを利用する顧客を相乗効果で増やす狙いだ。チャリチャリは2018年に福岡でサービスを開始し、累計利用回数が300万回を達成。市内の利用エリアも拡大を続けている。

(左から株式会社mobby ride代表取締役社長 日向諒氏とneuet株式会社代表取締役社長 家本賢太郎氏)

ニューノーマルで多様化する移動のニーズ

新型コロナウイルスの影響により、通勤や通学でも3密を避ける動きは広まった。緊急事態宣言解除の直後に西日本鉄道(以下、西鉄)の公式LINEアカウントでは「電車・バス混雑情報確認」機能が追加され話題を集めた。同時に、移動手段として3密を避ける手段の1つとしてシェアサイクルの利用が広がりを見せる。

トヨタ自動車株式会社が提供するスマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」は2019年11月28日より福岡市、北九州市で本格実施が開始された。現在は、公共交通(西鉄、九州旅客鉄道株式会社、地下鉄など)、自動車(タクシー、レンタカー、カーシェアなど)、自転車(サイクルシェア含む)、徒歩など多様な移動手段を組み合わせ最適な選択肢を提案している。

(my routeより引用。あらかじめ行先まで利用したい移動手段を選択し、最適化されたルートが表示される。駅からのラストワンマイルの選択肢には、到着時間の早さ、料金の安さとユーザーの重視するポイントに応じてシェアサイクルやタクシーなど選べるのが特徴。)

密を避ける移動手段として増加したシェアサイクル

新型コロナウイルスの影響で飲食のデリバリーの需要が急増し、新たにデリバリー配達員を始める人材も急増している。コギコギ株式会社(東京都渋谷区)が提供する電動アシスト自転車のシェアサイクル「COGICOGI」は、新型コロナウイルスの影響を受け配達員専用電動アシスト自転車レンタルプランの月額制サービスを開始している。同社によると、新規で購入した場合に10万円以上する電動アシスト自転車が月額4,000円から利用できる。手軽さが人気を集め、同社がサービスを展開するエリアでは東京に続き福岡の利用者数が2位となり需要が増しているという。

「配達員の方は1日の勤務で100キロメートル移動することもあり、長時間利用可能なバッテリーを登載した車種が人気です。配達員の方以外にも、通勤利用で公共交通機関を使うことにリスクを感じる方の声も受け、月額制の貸し切り自転車を展開しています」(コギコギ株式会社取締役 波止 紗英氏)

また、Go To トラベルキャンペーンを利用し密を避けた観光需要により、観光客の利用も好調だという。1日乗り放題プランで天神や博多エリアから海の中道、能古島など自然豊かなエリアまでサイクリングを楽しむ利用客も増えている。今月からは観光客向けにファッショナブルな車種のシェアリングも開始した。

(COGICOGIが新たに展開する車種。一見すると電動アシスト自転車のシェアサイクルとはわからない)

新たな移動体験から生まれる糸島観光

福岡市の西に隣接する糸島市は美しい海や山など自然が広がり、話題のカフェやレストランも多い。福岡空港や福岡市内から車で1時間以内とアクセスも良く、福岡市中心部から気軽に行けるリゾートとして人気が高いエリアだ。車が観光移動の中心である糸島だが、ここ数年で自転車専用道の整備が進み始め、移動の体験を楽しむサイクルツーリズムも注目され始めている。

一般社団法人糸島半島エコツーリズム協会は、来年の4月に電動アシスト付きスポーツ自転車(e-Bike)のレンタルを開始予定だ。e-Bikeは電動アシストで運転者の体力に左右されず山間部を走行できる。従来のシティサイクルタイプの電動アシスト自転車とフレーム素材やタイヤの車輪の大きさ、乗車姿勢が異なり、長距離移動をしても疲れにくいのも特徴。山間部の走行時には福岡市のスタートアップが提供する登山用GPSアプリからサイクリングルートを作成し、提供する。今後は、サービス利用者のデータを蓄積し、サイクリングならではの写真スポットやルートをサービス利用者へ提案していく予定だ。

「車の観光は、店員さんとのコミュニケーションがメニューのやりとりのみで終わってしまうことも多いんです。モビリティが便利になればなる程、人は人の行動に対して無関心になってきていると感じます。自転車だとより人の行動に関心がおかれ、『どこから自転車で来たんだろう?』と気になって、新たな人のつながりが生まれる効果もあります。わざわざ自転車というのが会話のきっかけにもなるんです」(一般社団法人糸島半島エコツーリズム協会代表理事 日隈優輔氏)

(山間部を走行するe-Bike。海側が注目されがちな糸島だが、山側の道は車も少なく写真映えするスポットも多い)

これまで福岡モビリティの最前線を紹介した。一度体験するとその便利さからまた利用を続けたくなるサービスが並ぶ。移動するのに車を所有するのが当たり前だった時代から、モビリティシェアによって、従来の移動の個別性を守りながらも自由度が増している。

行きたい場所へ検索のストレスを感じることなく移動することができたり、走行スピードが落ち、車では見逃しがちだった観光地の魅力を再発見できたりといった体験は今後ますます受け入れられ、広がりを見せていくことだろう。

明日、11月7日にオンラインで開催される明星和楽では「主要部の交通と地方の交通 〜これから愛されるモビリティとは〜」と題し、各地で活躍するモビリティのキーパーソンをゲストにトークセッションを開催する。申込みはこちらより。

 

※トップ写真は福岡市役所HPより転載