昆虫で食糧危機を解消!? ムスカの取り組み 〜特集:次世代のための食の循環②〜

昆虫で食糧危機を解消!? ムスカの取り組み 〜特集:次世代のための食の循環②〜
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世界の人口増加や経済発展にともない、1人辺りのGDPが増加傾向にある昨今。これからさらに、肉や乳製品など畜産物への需要が高まることは間違いない。現在、畜産の飼料には魚粉が多く用いられているが、この魚粉も天然資源であり有限だ。

そんな状況の中で、昆虫を「地球を救うテクノロジー」と捉え、45年間1,100世代の品種改良を重ねた独自のイエバエによる『畜産糞尿を肥料や飼料に100%リサイクルする循環システム』の実用を目指している企業がある。株式会社ムスカだ。

「ムスカは、イエバエの活用によって100%バイオマスリサイクルシステムを確立させた、昆虫テクノロジー企業です」と、話すのは代表取締役 暫定CEO 流郷綾乃さん。

畜産の排泄物や生ゴミのような有機廃棄物にハエの卵を撒くことで幼虫が飼料になり、1週間で家畜のエサとなる飼料と農家向けの肥料に分解される。すなわち、ゴミから2つの資源を最速で生み出すことができるという循環システムを構築しているのがムスカだ。このシステムにおいて欠かせないのがイエバエというわけだ。

火星に行くためのイエバエ?!

もともとこのイエバエを使った循環システムの構想は、旧ソ連時代まで遡る。当時、アメリカと旧ソ連が宇宙開発技術で競っていた時代、アメリカの月への有人飛行に対抗し、ソ連では火星への有人飛行の計画を立てていた。

火星までは往復で4年ほどかかるという見込みの中、食料の確保、そして飛行士たちの排泄物処理という2大問題が立ちはだかる。それらを同時に解決できるのは“循環”しかない。しかし、その循環をどのように生み出すのか? 科学者がさまざまな生物を検証し、辿りついた答えがイエバエだった。

人間の排泄物から短期間で動物性タンパクを生み出せるうえに、幼虫排泄物も肥料として活かせるので、まさに宇宙船内での循環にぴったりだった、というわけだ。その後、ソ連崩壊により、さまざまな研究がノウハウごと企業向けにに売りに出されたタイミングで、ムスカ創業者で会長の串間充崇氏の恩師にあたる、株式会社フィールドの創業社長の故・小林一年氏が、当時のロシアの研究技術を買い付け日本に持ち込んだ。

その後、専門の先生に見てもらったところ「これはすごいハエだ」という話になり、共同研究が始まった。

サラブレット化されたイエバエを日本に持ち込んだのと同時に、選別交配の技術もロシアから継承され、現在に至るまで約45年間・1,100世代の品種改良を経た超サラブレット化されたイエバエがムスカに受け継がれている。そんなムスカイエバエによって実現したのが、以下の動画にあるムスカシステムだ。

事業化までの道のり

ムスカにイエバエがやってきた当初は、環境問題や人口増加によるタンパク質不足なども騒がれていなかったので、あくまで「循環型の街づくり」に必要な技術という認識だったのだという。しかし現在では状況が変化し、魚粉などに代わる飼料として昆虫類のタンパク質への注目がかなり高まってきている。

ではイエバエを用いることでできる肥料・飼料は、従来のものと何が異なるのだろうか。

「まず、肥料についてですが、生産物の糖度の上昇、収穫量の増加、成長促進、抗菌作用、根張りが良くなるなどの効果が実証されています。また、土壌はフカフカになり、微生物のバランスも最適に保たれます。さらには抗菌性も持ち合わせており、土壌の病原菌を抑制する可能性にも期待されています。

そして、飼料について。文部科学省管轄JSTから資金をいただいて、愛媛大学と共同実験した結果、魚の餌となる魚粉にイエバエ飼料を混ぜて使用することで、魚粉の使用量を減らせる上、通常の餌を与えた場合に比べて、マダイの体色やサイズに大きな違いが見られました。さらに、免疫性の向上や食いつきの向上、ストレス低下についても確認されています。」

ムスカでの流郷さんの役割

もともとフリーランスで広報・PR業をしていたという流郷さん。設立後、まだ間もないムスカにジョインすることになった契機をうかがってみた。

「もともとフリーランスで広報・PR業をしていたのですが、その中で株式会社ベイシズというビジネスデザインカンパニーの執行役員・最高広報責任者としても活動していました。その流れで、投資先として支援しているムスカの広報戦略も担うことになったんです」

その後、彼女の尽力により「ムスカ」という名がスタートアップ界に一気に知れ渡ることになる。

「かなりPRに力を入れましたからね。ただ、本当はもっとスピーディに資金調達ができると思っていました。というのも、ありがたいことにさまざまなイベントでタイトルを獲らせていただいているんですが、前回のタイトル保持者を見ると、その段階で資金がパッと集まっていたりするわけです。

ただ、私たちの事業というのは、いわゆるテクノロジーといわれる分野から少し離れているので、投資対象にあたるのかを判断しづらいという側面があったのでしょうね。周りに与える衝撃があまりにも大きかったようで、それを埋めていくという作業が予想以上に大変でした」

「昆虫産業」という大きなくくりで見ると、日本は産業として回していこうとしている会社も少ないうえに、研究者がうまく事業に転換していくのが難しい側面があるのだ。さらに、ムスカの場合は、すでに流通業が確立されている飼料や肥料の業界に足を踏み入れていることから、さらなるドツボにハマってしまったのだという。先日、丸紅や伊藤忠商事とのパートナーシップ締結が発表されたが、それらにより、今まさに、そこから抜け出すことを目指しているところなのだ。

究極の循環型社会を目指して

「まずは、2019年に畜産糞尿を主な原料にして、飼料と肥料を生産する1号プラント着工を目指しています。同時に、現在『廃棄物質のゴミが扱えるのか』『飲食店の生ゴミはどうなのか』などさまざまな問い合わせをいただいています。技術的に可能なことは分かっているのですが、そうしたゴミを対象にしたとき、どのような成分値の変化がみられるのか、1週間で処理することが可能なのかなど……実証実験を並行して実施していこうと思っています」

さらに、先代の小林氏から意志を受け継ぎ、ムスカプラントを軸とした循環型の街づくりをしたいと考えているのだという。

「いずれはムスカブランドの魚や鶏などを養殖し、お店で販売されるようになったら面白いですよね。ムスカは、社会貢献、環境問題の解決を目指す企業ですが、NPOではないんです。今後はNPOと営利企業の境界線が、より一層あいまいになっていくと考えています。それこそが、究極の循環型社会のあり方だと考えています」

もちろん目指すところは日本だけではなく、世界を目指していきたいと流郷さんは語った。

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