生ゴミを有機肥料に! manu coffeeと土壌の専門家が取り組むアップサイクル 〜特集:次世代のための食の循環①〜

生ゴミを有機肥料に! manu coffeeと土壌の専門家が取り組むアップサイクル 〜特集:次世代のための食の循環①〜
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自社焙煎した新鮮な豆を1杯1杯丁寧に抽出するスペシャルティコーヒーの専門店「manu coffee」。スペシャルティコーヒーブームが起こるずっと前からここ福岡の地にオープンし、現在福岡市内に5店舗を構えるまでに成長している。

そんなmanu coffeeが店舗拡大と並行して注力してきたのがリサイクル事業だ。約10年前からストローやカップ、牛乳パックなどのリサイクルに取り組んできた。ただどうしても解決できない問題があったと、manu coffeeの福田雅守さんは話す。

「リサイクルを推進する中でふと違和感を覚えたのが、毎日当たり前のように廃棄する『豆カス』でした。インターネットで豆カスのリサイクルについて検索してみたりしたんですが、なかなかいい情報が出てこなくて途方に暮れていたんです」(福田さん)

コーヒー1杯を淹れた時に廃棄される豆カスは約36グラム。手の平にもスッポリと収まるほどの量だが、まさに“塵も積もれば山となる”。2016年〜2017年の1年間で約4トンもの豆カスが廃棄されていたのだという。5店舗目となるクジラ店がオープンする前の数字なので、単純計算しても、さらに量が増えていることになる。

「いろいろ模索している間にも、日々豆カスは捨てられているわけで……なんとかこの状況を打破しなければならないという焦りから、アルミパックに豆カスを入れて『ご自由にお持ちください』というメッセージとともに、店頭に置いてみたんです」(福田さん)

そこに偶然お客さんとして訪れたのが、糸島に拠点を構える土壌研究の専門家「金澤バイオ研究所」の金澤聡子さんだった。

「店頭に置かれていた豆カスを発見して、『んじゃ、取り敢えずうちでなにかできないかやってみよっか』って(笑)。話がトントン拍子に進んで、豆カスを使った肥料の開発に着手したんです」(金澤さん)

研究段階で何度も折れかけた心

金澤さんとタッグを組むにあたり、manu coffeeでまず取り組んだのが“豆カスを捨てない”のを徹底すること。ルーティンがひとつ加わることをすべてのスタッフに伝えることは、想像以上に骨が折れる作業。それでも「スタッフの意識改革にもつながるはず」と、繰り返し伝えた。そして、その溜まった豆カスを金澤さんが定期的に回収に来るという流れが自然とできあがった。

豆カスを持ち帰っては、研究することを繰り返していた金澤さん。水分を含んだ豆カスは時間の経過とともにカビが発生して、とてつもない悪臭を放つ。

「研究段階では工場で大量生産するわけではなく、私ひとりでデスクに向かって施策していたので、カビや臭い、そして湧いてくる虫に心が折れかけました」(金澤さん)

研究はまさに、孤独と悪臭との戦いだったのだという。それでも乗り越えられたのは、「manu coffeeのみなさんのおかげ」だと断言する。

「常にみなさんが『いつでもお手伝いします!』というスタンスでいてくれたので、本来、孤独を感じることが多い作業ですが“みんなでやっている感”を感じながら取り組めました」(金澤さん)

都市型肥料の完成…!?

しかし豆カスの分析を進めるうちに、肥料には不向きであるということがわかった。

「種子であるコーヒー豆は、外的から身を守る性質を持っているので土には馴染まないんですよ。それを超高温で発酵させることによって、短時間に腐熟(腐植)化させることに成功し、欠点を優れた物質に転換させることができました」(金澤さん)

通常、オーガニック肥料を製造する際の発酵温度は60度程度とされている。しかし、その温度だとすべてが発酵しきらずに終わってしまう。それが悪臭の原因にもなるのだという。今回開発された肥料は、90度まで温度を上げることで病原菌や雑草種子を死滅させることに加え、しっかり発酵させきることができるようになり、臭いのない肥料が完成した。

「たっぷり栄養が含まれた成分ばかりを使っている分、臭いがとにかくすごかったのですが、この発酵方法により無臭の肥料が完成しました。家庭菜園や商業施設、インテリアショップの鉢植えなんかにも気兼ねなく使えますよね。“都市型肥料”といったところでしょうか」(金澤さん)

想いが凝縮したパッケージ

構想から5年経った2018年10月。豆カスを使ったバイオ肥料『manua』はついに完成する。次なる課題は「どう販売するか」だった。

「ここまでリサイクルにこだわりを持って突き進んできたのに、パッケージを新しく製作してしまうと本末転倒な気がしたんですよね」(福田さん)

そこで初心に立ち返り、普段コーヒーパックをパッキングしている袋を再利用。上からシルクスクリーンで「manua」のロゴを施すことにしたのだという。

さらに、袋につけられたタグは佐賀県で活動している和紙のプロダクトブランド「KAMINARI PAPERWORKS™」に製作を依頼。焙煎後に出てくる薄皮(チャフ)や余ったフライヤーなどを和紙に加工してもらい、見事すべてリサイクルによって「manu coffee」の世界観が、そして思いが凝縮したパッケージが完成した。

視線の先はすでに世界へ

本来は肥料といえば、ホームセンターなどで販売されるのが一般的。しかも、価格的にも買いやすい商品がすでにたくさん流通している。

「manuaは、ストーリーに共感してもらえる人にたくさん使っていただきたいなというのが念頭にあって。コーヒー豆の生産者さんに恩返しという意味で、たくさん使っていただきたいなと考えています。それと同時に、自分たちで育てた苗を鉢にいれて販売していきたいですね」(福田さん)

「豆カスをプラスすることで、虫除け効果、防虫効果があるんじゃないかと予想をしています。今後も引き続き分析・実証を行っていき、より幅広い活用法を模索していきたいと思っています。いずれは、世界に通用する商品にしていきたいですね」(金澤さん)

完成したからこれで終わりなのではなく、今後もよりよい商品へと進化させていきたいと語る2人。前例がない豆カスの活用方法だからこそ、秘めた効果は未知数。豆カスと最先端技術の融合がもたらす可能性に期待したい。

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