ドーガン・ベータ渡辺麗斗氏に聞く【前編】「最大25億円規模の新ファンド」設立の背景とは?

ドーガン・ベータ渡辺麗斗氏に聞く【前編】「最大25億円規模の新ファンド」設立の背景とは?
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長年に渡り九州・福岡のスタートアップの成長を支えるベンチャーキャピタル(以下:VC)ドーガン・ベータ。2020年5月には最大25億円規模の新たなファンド「β2020」を設立した。現在は、コロナ禍で起業家ニーズに対応するため、オンライン起業家相談プログラム「1on3」を開始している。

今回は、先日11億円の資金調達を発表したメドメイン株式会社を始め、注目を集めるスタートアップへ数多く投資実績のあるベンチャーキャピタリスト、ドーガン・ベータ取締役パートナー渡辺麗斗氏にお話しをうかがう。前編では九州でベンチャーキャピタリストを始めた理由、新たなファンド設立の背景についてお伝えする。

VC東京一極集中の最中、神戸大学を休学し福岡へ

渡辺さんのプロフィールを教えてください。福岡を拠点にベンチャーキャピタリストになったきっかけは何だったのでしょうか?

僕は静岡出身で、大学時代は神戸大学の経営学部でベンチャーファイナンスを学びました。当時、地元の仲の良い友達はほとんどが大学で県外に出て、卒業後の就職先も静岡へのUターンを希望しない現状がありました。僕自身も静岡が良い街で、親戚も友達もたくさん居るので戻りたいという気持ちもありましたが、「働きたい」と思える会社が多くはありませんでした。自分が希望するキャリアだと地方銀行しか無かったんです。

大学の講義でGoogleなど爆発的に成長するスタートアップの可能性を見極めて、投資する面白さを知ってしまった自分にとって、地方銀行の融資業務に対して新しさは感じられず「なぜ地方にスタートアップは無いのだろう?」と考えるようになっていました。それは静岡に限らず、日本の地方に共通する課題だとも考えたんです。その中で、Googleなど世界企業を生んだ地である米国のシリコンバレーは、その都市の中でお金と人が回って循環を続けているので、急成長する企業が次々と生まれているのだと気付きました。

当然、お金と人が循環する仕組みができていないとスタートアップにとって地元で起業するメリットが少ないので、投資も人材も豊富に集まる東京に出て行ってしまいます。当時のVCは新設ファンドの本拠地はほとんどが東京で、金額ベースでも9割以上が東京に集中し、東京から地方に投資をしていたものの、「地方で地方に投資をしているVC」がほとんどいない状況でした。その課題を解決したいと考え続けた末に「もし地方でその一番最初のお金の回転を生み出せたら、その回転がどんどん大きくなって、地場に根付くんじゃ無いか?」という想いが生まれました。

「実際に地方で実践しているVCが一周目を回すところをもし一緒になって見られたら、いつか自身が静岡にも持って帰られるんじゃないか? 仮に僕の世代では叶えられなかったとしても、僕たちの子ども世代では地元に戻れる仕組みができるのではないか?」と考えるようになっていきました。その時に偶然知ったのが、福岡を拠点に地方への投資を行っているドーガンだったんです。

何とかドーガンで「地方から地方に投資する経験をしたい」と思うようになり、インターンであれば受け入れてもらえるハードルが低いだろうと考えて、半ば強引にインターンをお願いし、大学を休学して福岡に引っ越してきました。1年半ドーガンのインターンとして、2012年のファンドの立ち上げと運営を経験させていただき、一度神戸大学に戻って卒業してから2014年にドーガンに新卒入社しました。

(ドーガン入社の年、パートナーシップを結んでいる福岡市スタートアップカフェの立ち上げを経験。「最初の頃は手探りでやっていたので、カフェに週7日出勤していました(笑)」(渡辺氏))

β2020では25億円規模、40社程度のスタートアップに出資予定

2020年5月に最大25億円規模の新ファンド「β2020」を設立されましたね。設立の背景を教えていただけますか?

ベンチャー・スタートアップに投資をするファンドは0号から数えて今回のファンドは4本目です。2006年に誕生した0号ファンドでは、当初は第二創業に近いベンチャー企業がメインであったものの、後半にスタートアップにも投資を行っていました。今年7月マザーズ上場した福岡のアイキューブドシステムズや、ZOZOに買収された宮崎のアラタナに投資をしました。ファンドの期限が短かったため、どちらも上場や合併まで保有することができなかった経験から、その後のファンドは長く持とうという流れになって。2012年の1号ファンドは10年、2017年の2号ファンドも10年と結果がでるまで長く持てるようになりました。1号ファンドの投資先は、知名度のある企業ではグルーヴノーツなど。僕の担当だとヤマップがあります。

その流れの中で、新しくできたのが今回の3号ファンド「β2020」です。来年5月のファイナルクローズまでに25億円を目指します。ファンドの存続期間は12 年。ファンドの主な出資先は、QTnet、第一交通産業、福岡放送、山口フィナンシャルグループなどがあり、現段階で約15億円の設立が決定しています。今回のβ2020では40社程度のスタートアップに出資をする予定です。

より早く、より長くシード支援を行う「シード期のファーストトゥーラスト」の存在に

これまで10億規模のファンドだったものを、今回25億円を目指しファンドサイズを拡大したのには、投資対象のファイナンスギャップを解決する目的があります。僕らはずっとスタートアップのシード(スタートアップの成長段階で、サービスが世の中に出る前の時期)と呼ばれる段階で、プロトタイプ(試作品)ができ上がり世の中に仮説検証してくタイミングで投資を行ってきました。0号を除くと、それ以外のファンドはポートフォリオの75%が私たちを一番最初のVCとして受け入れてくれており、最初に投資をする金融投資家の役割を担っています。

最近ではシードの区分がより細分化されてきています。プレシード(試作品をつくるよりさらに前段階のアイデアの段階)で投資をする投資家が増えている半面、投資家のファンドサイズがあまり大きく無く、その次のラウンド(スタートアップの資金調達の段階を示す基準)まで投資が継続できないという課題が浮き彫りになってきているんです。

それ以降の投資家は、シリーズAと呼ばれるようなサービスを本格的にリリースする段階で数億円規模で投資する投資家がいるのですが、その規模の投資家にとって、まだまだ危なっかしいタイミングで投資を行うメリットがそこまで大きくなく、ここにファイナンスギャップが生まれているんです。シリーズAクランチ(シリーズAの投資に到達するまでに資金が尽きて倒産してしまう)と呼ばれるような現象です。

僕らとしては、従来通りアイデアの段階から起業家と一緒にビジネスをつくっていくお手伝いもするし、その後の資金需要もちゃんと埋められるようにそれなりの大きな金額を投資しつつ、シリーズAまでつないだ後も追加投資ができるようなファンドを目指しています。そのため、β2020では1社あたりの投資金額を増やす投資を行います。今まで10億くらいで30社に1,000万円から5,000万円を投資していたのを、ファンドサイズは約2倍でも投資社数を2倍にするのではなく、1社あたりに累計で投資できる金額を2倍以上の5,000万円から1億円出せる状態にしていきます。

足場固めの時期に投資家に振り回されたり、安易なピボット(事業の軌道修正・方向転換)で0ベースに戻って苦労したりすることが無いように、足場を固めるところは地元でできるようにサポートしていきたいですね。

僕らは創業期を支える理念を変えずに、「より早く、より長くシード支援を行うシード期のファーストトゥーラストの存在」としてβ2020ファンドをつくったというイメージです。

【後編】「オンライン起業家相談プログラム1on3」の設立の背景。に続く。